大判例

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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)186号 決定 1962年10月29日

抗告人 末吉五郎(仮名)

相手方 末吉ふさこ(仮名)

右法定代理人親権者母 丸山かつ子(仮名)

主文

原審判を左の通り変更する。

抗告人は、相手方に対して、昭和三四年九月一二日より相手方の義務教育就学の月の前月末日までの間一月金一、〇〇〇円、右就学の月の初日以後義務教育終了の月の末日までの間一月金一、五〇〇円の各割合による金員を、一箇月分宛、毎前月末日までに、期日到来分は本決定確定の日に支払うことを命ずる。

相手方のその余の請求を棄却する。

審判申立費用並びに抗告費用は各自の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨と理由は別紙のとおりである。

まず、抗告理由の第一点について判断するに、その趣旨は相手方を扶養する義務者は母かつ子とする協議が成立したというにあるものと解されるが、右の如き協議が確定的に成立したと認めるに足りる証拠はなく、仮に右の如き協議が成立したとしても、これによつて父たる抗告人に対する相手方の扶養請求権が消滅するわけのものではなく、母かつ子が右協議成立後相手方を扶養する能力を失うに至つたときは、相手方は抗告人に対して扶養請求をなし得るのであつて(相手方の本件扶養料請求はこの趣旨の申立をもかねると解すべきである。)その場合に相手方の母かつ子、父抗告人その他相手方を扶養する義務者の間に扶養の程度、方法につき協義のととのわぬときは、家庭裁判所に於てこれにつき審判すべきであることは民法第八八〇条に則り明かなところで、而して一件記録によると本件においては右協議が不調に終つていることが明かである。従つて抗告理由第一点は理由がない。

抗告理由第二点について考察するに、一件記録によると相手方はその母かつ子と抗告人との間に昭和三〇年九月七日生れたこと、右かつ子と抗告人は事実上離婚別居し、相手方は母かつ子と共に母かつ子の実家山本春男(かつ子の父)方に引きとられていたが、昭和三三年五月二七日正式に離婚の調停が成立し、その際相手方の親権者は母かつ子と定められたこと、相手方の親権者が母かつ子と定められたのは母かつ子に於て相手方をいわゆる継母の手にかけることを不憫に思い、適当な先を見つけて相手方を養子にやる考えから、抗告人の引取申出を排し、結局右の如く協議が調つたこと、母かつ子は相手方を実家において昭和三五年五月頃には事実上丸山勝彦と結婚し、同年八月二二日婚姻の届出をしたこと、右山本春男は同年八月一二日死亡したこと、相手方は祖母こま(かつ子の母)に養育されていること、抗告人は昭和三三年一〇月頃には後妻たい子を迎えその間に一子を儲けて現在三人暮であること、財産収入関係は、昭和三四年一〇月頃、相手方の母かつ子は女工として月収約一〇、〇〇〇円、右山本春男はその頃は播州織物工業協同組合の守衛として勤務し、その給料の外財産としては約七〇坪の家屋敷があるだけであつたこと、右かつ子の再婚先の丸山勝彦は月収約一一、〇〇〇円で、他に財産としては一〇年程前に建てられた二階建家屋一棟建坪一階六・五坪、二階五・二五坪があるに過ぎず、しかも老父母と同居扶養していること、そこで、かつ子は製針工場につとめ日給制で月収約四、五〇〇円を得て生活の足しにしていること、抗告人は昭和三五年中に給与総額一八三、〇八九円を得、別に床面積二二坪の住家を所有していること、又抗告人は昭和三三年一〇月三日本件審問をうけた際に相手方を引取り養育することに抗告人は勿論、後妻たい子も異議なく同意していると述べ、同日そのためには相手方の親権者変更の手続をするようにすすめられたにも拘らずその手続をせず、後妻たい子も本件審問の呼出に応じなかつたこと、以上の事実が認められる。

以上の事実によると、相手方は母かつ子が昭和三五年五月頃事実上の再婚をして他家に去るまでは、母かつ子、祖父山本春男、祖母こまのもとで、愛情を以て十分の扶養をうけていたと認められるが、母かつ子の再婚後祖父母に、祖父が昭和三五年八月一二日死亡後は祖母に、順次監護養育されるようになつてからは、これらの者の境過、資力にかんがみると、これらの者だけでは相手方に相応した扶養をなし得ないことは明かであるから、抗告人は相手方扶養義務の一半を負担すべく、而して相手方の一箇月の生活諸経費を就学前は金三、〇〇〇円就学後義務教育終了までは金四、〇〇〇円と認定し、本件扶養権利者義務者の各生活環境並びに財産関係を考慮して、抗告人に対しては右扶養義務の履行として、本件審判申立の日である昭和三四年九月一二日から申立人の就学の月の前月末日までは一月金一、〇〇〇円、就学の月の初日以後義務教育終了の月の未日までは一月金一、五〇〇円の割合による相手方の生活費の一部を負担させるのが相当と認める。

右と異る原決定は相当でないからこれを取消し、家事審判規則第一九条第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 田中正雄 判事 宅間達彦 判事 井上三郎)

別紙

抗告理由

1 未成年者末吉ふさこの親権者を丸山かつ子にすることについては抗告人に対して扶養料を請求しないことが条件になつているので未成年者が意思能力を有するに至つて未成年者の意思によつて扶養料請求をするに於ては別問題であるがそうでなく丸山かつ子の意思によつてこの請求をなすことは不当であつて抗告人は納得できない。

2 仮りにこの請求が理由ありとしてもその金額には承服できないのである。

3未成年者の親権者を抗告人とすることの手続すべく目下その準備中につきこの点からも抗告したのである。

参照

原審(神戸家裁社支部 昭三四(家)一八四号 昭三六・六・二九審判)

申立人 末吉ふさこ(仮名)

右法定代理人親権者母 丸山かつ子(仮名)

相手方 末吉五郎(仮名)

主文

一 相手方は申立人に対し扶養料として

(イ) 本件審判申立の日昭和三四年九月一二日より昭和三五年一二月四日まで一ヵ月金二、〇〇〇円の割、計金二九、六〇〇円を本件審判確定の日限り。

(ロ) 昭和三五年一二月五日より昭和三六年三月三一日まで一ヵ月金一、〇〇〇円の割、計金三、九〇〇円を本件審判確定の日限り。

(ハ) 昭和三六年四月一日より申立人が義務教育終了の月迄毎月金一、五〇〇円を毎前月末迄に期日到来分は本件審判確定の日に支払え。

何れも申立人法定代理人丸山かつ子の住所に送金して支払え。

二 申立人その余の請求は棄却する。

三 審判申立費用は各自弁する。

理由

本件申立の要旨は申立人は相手方末吉五郎と丸山かつ子とが婚姻中に出生した長女である。父母は神戸家庭裁判所社支部昭和三三年(家イ)第一三号離婚等調停事件が昭和三三年五月二一日成立し(申立人末吉五郎相手方末吉かつ子利害関係人山本春男)その際申立人の親権並びに監護者を母丸山かつ子に定められた。以来、従前に引続き申立人丸山かつ子に監護養育された。申立人の生活費は主として祖父(母の父)に於て負担されていたが、前記成立調停調書に記載の債務によつて祖父の収入も四分の一を相手方のために差押えられ、申立人を含む一家の生計維持が困難である。申立人の母が織布工場で女工員として得る収入は自己の生活費を充たす程度であるために家財を売却処分し、不足分を補つている状態であるにかかわらず、相手方は本造瓦葺二階建居宅一棟を所有し会社に勤務し月収金二〇、〇〇〇円を得て裕福な生活をしているから、申立人に対し扶養料として昭和三三年五月より昭和三四年九月まで一ヵ月金六、〇〇〇円計金一〇二、〇〇〇円を昭和三四年一〇月一日より扶養料を折半し満一八歳まで毎月金三、〇〇〇円を負担支払を求めるというにある。

相手方の当審判廷に於ける主張は終始して扶養料を出す位いなら申立人を引取ることを主張した。相手方は本件第一回審問期日に於て申立人を引取るというのであれば、次回期日迄に親権並びに監護者の変更手続をとる様、裁判所より審判廷で喚起されたに拘らず手続をとらなかつた。同審判廷に於て相手方は同人の後妻末吉たい子も申立人を養育することを承知で嫁に来たというが末吉たい子は本件審問期間の呼出に応じなかつた。

本事案を按ずるに相手方は扶養料を出す意思も、引取つて養育する意思もないといわざるを得ない、以上の事実は本件記録の事件経過表及び期日調書によつて明らかである。

相手方は最終審問期日である第一二回及び第一一回両期日共出頭しない。相手方の所為は既に申立人の扶養問題につき誠意がない、の一語に尽きる。

申立人側についても請求の趣旨で明らかな通り、昭和三三年(家イ)第一三号成立調停事件の債務金一〇、〇〇〇円を相殺する意図が伺われ請求額(昭和三三年五月より昭和三四年九月迄の扶養料)に妥当性を欠く点がある。また申立人の親権並びに監護者である母丸山かつ子は再婚し、親権を事実上放棄した形で現在はかつ子の母、山本こまに申立人を託している。本来なれば再婚の時期を以て親権を辞任すべきであり乍ら手続を為していない。

次に

一 申立人の母は昭和三五年一二月本審判書肩書地に再婚し女工員として月額約四、五〇〇円の収入を得夫丸山勝彦も或る程度の収入を得ている。

二 相手方は小沢染工場に勤務し昭和三五年度中に於て金一八三、〇八九円の給与を得ており資産として二階建住宅及び同屋敷を所有している。

三 申立人の母かつ子の父山本春男は昭和三五年八月一四日死亡した。

以上の事実は本件記録により明らかであり、当然本件扶養料の査定につき考慮が払われる可である。即ち申立人とその母の夫丸山勝彦とは姻族一親等の関係にあり、将来は母丸山かつ子に引取られることが予想されるので民法七三〇条により相互扶助すべき関係を生じるであろう。

一方相手方は相当の収入があり、家族は妻と乳児一人の三人暮しで申立人の生活程度に比し、相当裕福であり将来の増収も昇給等により当然期待される。

よつて当裁判所は特に相手方は申立人の親権者ではないが民法第八七七~八七九条の規定による生活保持義務者と定め申立人の一ヵ月生活諸費用金三、〇〇〇円就学後は金三、五〇〇円と認定し申立人並びに丸山かつ子の生活環境並びに相手方の家族、生活環境を考慮の上相手方が申立人の生活費の一部負担を相当と認め主文のとおり審判する。

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